皮膚バリア機能と食事

Posted:May. 21, 2021/執筆者:柴田 久美子先生

はじめに

皮膚は最も大きな臓器であり、犬や猫では栄養の多くを皮膚や毛が利用している。そのため、体内で栄養学的変化が生じると他の臓器に異常が生じる前に皮膚や毛に変化が生じることが多いと考えられている(1)。栄養学的異常を直接的な原因とする代表的な皮膚疾患には、亜鉛反応性皮膚症、代謝性壊死性皮膚炎があり、前者は亜鉛吸収量の低下、後者は何らかの原因による血中アミノ酸低下が主因と考えられており、主な治療は不足する栄養素の補充である。この様な疾患以外に、皮膚と栄養素が大きく関連すると考えられるのが皮膚バリア機能である。皮膚バリア機能低下が関与することが予想される犬の代表的な疾患は犬アトピー性皮膚炎と日和見感染症である。
犬アトピー性皮膚炎は先天的な皮膚バリア機能低下を背景とした慢性そう痒性疾患であり、犬では生涯にわたる多角的な治療が必要であり、その一つが皮膚バリア機能の改善である。また、動物病院の外来で最も多い皮膚疾患である膿皮症は何らかの皮膚バリア機能低下により発症する日和見感染症であるが、実際になぜ犬だけに好発するのか未だ不明であり、時に明らかな背景疾患が見つからないにもかかわらず再発を繰り返し、治療に苦慮することがある。さらに世界的な多剤耐性ブドウ球菌の出現により抗菌薬全身療法による治療からのシフトチェンジを余儀なくされており、今後の膿皮症の治療として皮膚バリア機能の修正は選択肢となる可能性がある。

皮膚バリア機能と栄養素

皮膚バリア機能に重要な皮膚構造は角質と表皮細胞間脂質である。主な表皮細胞間脂質はセラミド、ステロール、そしてリノール酸(ω6)とα-リノレン酸(ω3)などの脂肪酸である。これら構造と栄養素との関係として、表皮細胞の正常な角化や修復には亜鉛が関与することが知られており、また犬でヒマワリ油(リノール酸78%)を経口投与したビーグルにおいて、皮膚および血中リノール酸が増加することが報告されている(2)。よって食事に含まれる亜鉛や脂肪酸は皮膚バリア機能に直接的に影響することが予想される。
皮膚バリア機能を評価する指標に経表皮性水分喪失(TEWL: transepidermal water loss)がある。TEWLの増加は皮膚機能低下を示し、人のアトピー性皮膚炎、犬アトピー性皮膚炎ではTEWLが増加することが知られている。犬のTEWLに対する栄養学的効果としては、食事中の亜鉛あるいは亜鉛とリノール酸の含有量を調節した食事によりTEWLが減少すること(3)、表皮間脂質合成に着目した研究ではパントテン酸、コリン、ニコチンアミド、ヒスチジン、イノシトールを組み合わせた食事を9週間給与することによりTEWLが低下したことが報告されている(4)。また、人では近年、加齢に伴う亜鉛の血中濃度低下が注目されており、低亜鉛血症の高齢者に対し酢酸亜鉛水和物を12週間投与したところ、血中亜鉛濃度の増加とともにTEWLが減少し、高齢者の皮膚バリア機能改善に亜鉛の補充が有効と報告されている(5)。

最後に

皮膚は身体の異常をいち早く表現する「内臓の鏡」と呼ばれる臓器であり、バランスの取れた良質な栄養による管理は皮膚や身体を健康に保つために重要である。さらに皮膚バリア機能低下に起因する皮膚疾患では、発症の予防や維持管理の一助として亜鉛や脂肪酸などを中心とした栄養学的管理が有用な可能性がある。また、高齢動物や慢性炎症性疾患では、疾患に対する直接的な治療とともに、加齢や慢性的な消費による栄養素の不足を考慮した栄養学的支持療法も検討すべきと考えている。

参考文献

1.Miller WH, Griffin CE and Campbell KL. Basic nutrition and the skin. In: Muller & Kirk’s Small Animal Dermatology. 7th ed. Philadelphia. W. B. Saunders. 2013, pp 108-110.
2.Campbell KL, Dorn GP. Effects of oral sunflower oil and olive oil on serum and cutaneous fatty acid concentrations in dogs. Res Vet Sci. 53(2):172-8, 1992.
3.Marsh KA., et al. Effects of zinc and linoleic acid supplementation on the skin and coat quality of dogs receiving a complete and balanced diet. Vet Derm. 11: 277-284, 2000.
4.Watson AL, et al. Dietary constituents are able to play a beneficial role in canine epidermal barrier function. Exp Dermatol. 15(1): 74-81, 2006.
5.Deguchi M, et al. 高齢者への亜鉛投与による経皮水分損失(TEWL)の軽減効果. 薬学雑誌. 140(2) : 313-318, 2020.

ヒルズ学術部より

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執筆者:柴田 久美子先生

DVMsどうぶつ医療センター横浜 皮膚科